アニメ「謎の彼女X」とは、なんだろう?

2012年4月から放映されているアニメ「謎の彼女X」が、とてもいい。
どういいのか。
それは、この「謎カノ」が最近の「萌えアニメ」とは違う次元にあるという点だ。
どれもこれも萌え系キャラ全盛のアニメばかりの中にあって、このアニメは唯一その路線とは違う方向に向いている。それはヘタをするとただの手抜きか勘違いかのハズレでしかないけれど、「謎カノ」は明確な意図を持って、そして萌えアニメに対抗するチカラを持って、その路線を走っている。
それは萌えアニメに対するアンチテーゼなのだろうか?
いや、萌えアニメを否定したいのではないような気がする。
なぜなら、一見古くさいような絵柄でありながら、しっかりとキャラ萌え的な要素は秘められているからだ。ただ、現在主流のカラフルな髪色や瞳の色や絶対領域重視の衣装などを使わないキャラ造形なだけで、主人公の卜部美琴はアニメのキャラクターとしての魅力を充分に持っている。そして、それを「これ見よがし」ではない形で丁寧に描いている。植芝理一の原作マンガの独特の絵柄を損なわず、可愛さを何倍も増幅して、より魅力的になっている。キャラクターデザイン(小西賢一)と総作画監督(金子志津枝)らの仕事の見事さには敬服するしかない。
そして、卜部役の声優、吉谷彩子の起用。素人くさい、感情のこもらない棒読みのせりふ回し。これも上記と同じ理由の意図的犯行に間違いない。回を追うごとに卜部美琴の風変わりな魅力が見えてくると同時に、この声がキャラにぴったりとはまって聞こえてきてしまうのだ。もはや、このしゃべり方以外に卜部のキャラを表現できる演技などはあり得ないとさえ思わせてくれる。
三回目までの放送を見た時点で、さらに驚いたことがある。
原作マンガよりも人物たちが生きていることだ。
もちろんアニメとなって、絵が動き、色や光や影がつき、声を発し、音楽が流れ、マンガよりも生き生きと表現されるのは当然といえば当然かもしれない(そうならないアニメも時々あるけれど)。だがそういう意味ではなく、マンガ版よりも「生身感」とでもいうような現実感があるのだ。
特異な個性を持つ卜部美琴という高校二年生の女の子は、マンガではその「特異性」「特殊性」が全面に出ていて感情移入しずらく、どうしても傍観者的な見方しかできないのだが(それでも充分に面白いのだが)、アニメでは「特異性」「特殊性」の中にもちゃんと等身大の普通の女の子という「普遍性」を同時に持っているように見え、いつのまにか共感を抱かせてくれる。そしてそれは、本当に「純情な普通の男子」である椿くんとの恋愛関係をも違和感なくしっくりと納得させてくれるのだ。見ているほうは、どちらも応援したくなってしまう。
「萌えアニメ」ブームの次にあるものは、なんだろうか。それを見つけようとする意欲とチャレンジが「謎カノ」には感じられる。萌えアニメを否定するのではなく、そこで生まれた財産を大切に受け継いで新しいものを生み出そうというという意気込み。それはこの作品への愛情と丁寧な作り込みから、ひしひしと伝わってくる気がする。いまのところ、そのチャレンジは見事に成功していると言えるだろう。
さて、問題の「よだれを舐めあうことで愛情を伝える」というテーマは、かなりショッキングだったようだ。
「気持ち悪い」
「理解できない」
「変態すぎる」
「予想の斜め上を行く」
などなど、アニメ感想サイトやニコ動などのコメントでは、主にこの点ばかりが取りざたされ「マニア向けの変態フェチアニメ」といった評価がもっぱらのようだ。
確かに、マンガでは表現できなかった「よだれのテカリやねばり具合」が、アニメでは過剰なくらいの質感で表現されているのは否めない。
しかし、これはただの「変態性」で片づけていいものではないだろう。
はたして「よだれ」は何のメタファーなのか。それが重要なのだ。
もちろん直接的には「異性と触れ合いたいという青少年期の性への衝動」であろう。しかしそれは単なる象徴であってメタファーではない。
ひとつには、古くからある「運命の赤い糸」の置き換えと言えるだろう(よだれを舐めて体や心が変調するのは椿くんだけ)。
もうひとつは「コミュニケーションの媒介役」としての「よだれ」(なかなか本心を語りあえないけれど帰り際によだれを舐める日課で信頼と絆のようなものを確かめあう)。これはネットや携帯を介したコミュニケーションが肥大化し、いつのまにかリアルなコミュニケーションが希薄化してきていることにふと虚ろな思いを抱いてしまうような無意識の焦りやいらだちが、「よだれ」というまぎれもない肉体的な実体メディアの渇望というカタチで表出したものなのではないだろうか。(肉体の分泌物であるからにはどうしてもエロチックな象徴とならざるを得ないけれど、おっぱい、おしり、はだか、セックスというような直接的なエロチシズムとはなるべく遠いところにある「よだれ」を持ってきた。が、しかしそれゆえによけい変態的な嗜好がクローズアップされてしまったのか。ま、それも面白さを強化するポイントでもあるわけだけれど)
さらに「よだれ」は、なにかもっと他の大事なものを暗示しているような気がしてならない。
それはまだ何なのか、はっきりはわからないのだが。
なんにせよ「謎の彼女X」は、「エヴァンゲリオン」「涼宮ハルヒの憂鬱」「けいおん」「まどかマギカ」などのアニメ史の中でエポック的な役割を果たした作品のひとつとなるような予感がする。
アニメ版「卜部美琴」も、きっと忘れられないキャラクターになるに違いない。


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